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「そうか。……最後に一つ聞かせてくれ。何故お前は俺に真実を聞かせたんだ?」これが一番の疑問だ。彼女からすれば、こんなこと俺に教える必要はないはずだ。
「確かに、本来ならばこんな面倒なことはしない。もしイレギュラーに侵入された者を見かけたら、イレギュラーが逃げる前にその生物ごと殺すのが普通。何かの生物に宿っているときでないと彼らを殺すことはできないから。……たとえそれが侵入されたばかりの、まだ全然心が侵食されていない者だとしても。……だけど、あなたは別。詳しい理由は分からないけど、アルミティに止められた。多分、あなたはこの宇宙に何らかの大きな影響を及ぼす『確定因子』だからだと推測される。もしその生物が肉体的に死んだら、既に決まっている未来に多大なる影響を及ぼすだろうから」
「……じゃあなんだ、俺は何か凄い事をしでかすことになってんのか?」
「それが何かは分からない。しかし、あなたは宇宙史上で大きな役を持つのは確かだろう」
「その言葉を聞いて何か安心したよ。……じゃあな」
麗に背を向け、早足で歩いていく。その足はひどく重たそうに動いているが、陽はそんなこと関係なしにその場から離れようと懸命に歩いているようだった。
◇
麗は、陽が出て行くとすぐに扉を閉めた。彼女は静かに部屋へと戻る。白が基調のシンプルな部屋の中では、黒い服に身を包んだ麗は浮いた存在のようだ。麗は相変わらずのポーカーフェースで、その顔には眠気一つ見えない。今日起きてから二十四時間以上経つというのに。
麗には心がなかった。否、あるにはあるのだが、アルミティからの指令をこなすという強烈な『理性』のために感情を表すことさえできなかったのだ。彼女自身もある意味イレギュラーであり、そして、心は理性に押し潰されて『死んだ』のだ。――かつてはごく平凡な人間だった事もあったのに。
理性は、人間を人間らしくするものであり、また、『生物』というものと対極の性質を持つ、〈人間を非生物たらしめる〉ものでもあったのだ。それが分かっていても、人間は生物の範疇からどんどん遠ざかっていく。
だから麗は死んだ。その理性によって殺されたのだ。
――続く――
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