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陽は困惑していた。自分にやましい気持ちがあるわけではないが、やはり女性の部屋に入るのは気が引ける。ましてや、こんな美人だ。大学の友達に言ったとしたら、冷やかされた上に嫉妬されるかもしれないほどの。
「下らないこを考えてないで早く上がって」
部屋の中から声がする。まただ。何故俺の心が読めるんだ。
ため息をつきながら陽は部屋に入った。一つの部屋と、玄関、キッチンとトイレ、そして浴槽も完備している。部屋の広さは六畳ほどであろう。こういうことに敏感になってしまうのは、大学に入る前にいろいろと部屋探しをしていたせいかもしれない。結局、大学の寮で暮らすことになったわけだが。
そんな呑気なことを考えている自分がいることに気付き、一人で苦笑した。
部屋の中にはは蛍光灯の白い光が眩しいまでに反射し、陽は無意識に手で顔を覆った。壁は白く、何も貼られていない。床は味気ないベージュのフローリングが敷かれている。家具も、机と椅子、白が基調のシングルベッド、足が長めの折りたたみ式テーブル、それにクローゼットくらいしかない。テレビさえないのだ。その他の内装を大雑把に観察していると、彼女がキッチンから出てきた。お盆に乗せた湯のみを、組み立てられていたテーブルの上に乗せ、陽の方を向いた。
「座って」
有無を言わせぬその声に、陽は黙って従う。
彼女も陽の対面に座り、口を開いた。
「さて、何から話しますか……」
「全てだ。公園にいた化け物のこと、お前は何故俺の心が読めるのか、そしてお前は一体何者なのか」
「……全ては繋がっている。まず、あなたに真実を話す。この宇宙の、真実を」
「真実だと……」下らない新興宗教の教祖が宣っていそうなことだが、面白い。聞いてみようか。……ふん、俺がこう考えていることも、こいつは読んでいるのか?
「……いきなり結論から言うが、この宇宙で起こりうる全ての現象の運命は既に決まっている。自然現象は勿論、生物が持つ気持ちも全て」
「……は?」
陽はそれなりに、何を言われてもある程度それを受け止められるよう覚悟をしていたが、これは予想外だった。自然現象も気持ちも決まっていただって?それじゃあ、今俺が抱くこの気持ちも運命だっていうのか?
「そう。全ての現象はこの宇宙が生まれた瞬間に『確定事項』となった」
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