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「……ふん、馬鹿馬鹿しい。そんなことあり得ない。もしそれを押し通そうとするのなら、その根拠を示してもらおうか?」
流石に気持ちを読まれていたのは事実だ。しかし、それが予め決められたものだったとは考えられない。彼女が俺の気持ちを読めるのは、――そう、俺の細かい表情や仕草を読み取り、判断したものに違いない。
「理由は簡単。この宇宙に存在する全ての現象は、エネルギーの移り変わりと時間の流れで表すことができるから。……物質というものは、アインシュタインの相対性理論で示されているとおり、エネルギーが形を変えたもの。そして、この宇宙はこの二種類のモノが基本的な物理法則に従って成り立っている。それを逆に考えれば、それらの全てを知ることができたならば、その未来を予測することができる。……あなたは確か大学で素粒子論を専攻しようと考えていたはず。それなら知っているでしょう?時間や長さといったものは断続的なものではないことを。時間と長さにも最小単位がある。例えば、時間の最小単位は十のマイナス四十四乗秒。全てはコマ送りの、立体的な静止画の重ねあわせに過ぎない。私たちは非常に細かく分断されたアニメの様なモノの中で存在していると考えれば分かりやすい。ここまで言えば、あなたならわかるはず。この宇宙に混沌など存在しない。確率もない。この宇宙は起こるか起こらないか、……つまり、『ある』か『ない』かのみで成り立っているのだから。この宇宙で起こりうる全ての現象は予め決まっている確定事項に過ぎない」
彼女は静かに湯のみに薄緑色の液体を注ぐ。そこから白い湯気が立っている。
陽は少し考えた後、静かに返答する。
「理論上はそうなるだろう。だが、心はどうなる?感情まで読み取れるわけがないだろう?」
陽の問いにも、彼女はさも考えることさえしないように答えた。
「――感情も、所詮人間の脳内の化学物質や電気信号の流れ。それに、心などというものは人間が作り出した虚像に過ぎない。その証拠に、何かを意図して行動するとき、『体が動きだした後に動かそうと意図した』という実験結果があるのをあなたは知っているはず。意識の一部である意図は、行動の後に作り出されるただの虚像に過ぎない」
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