演目:2、硝煙の舞うエチュード

2/28
10人が本棚に入れています
本棚に追加
/37ページ
 静寂と、暗闇。そして混沌が支配する夜闇を照らすは、金色の光を投げ掛ける、丸い月。  あの時と同じだ、とミレーネは思った。  彼が見せてくれた、初めての世界も……今と同じ、満月の空だった。    ――首輪を外してくれた人と、今、一緒にいる。  黒一色の世界で唯一輝く宝石を見上げつつ、ミレーネは、夢を見ているような心地でいた。 「おい、ミレーネ。何をぼーっとしている?」  ロニオが惚けたように動かないミレーネの肩を掴む。  びくりと震え、少女は漸く視線を戻した。 「あっ……ごめんなさい」 「どうした? 上を向いて」  彼女らしくないと思いながら、軽く諫める。集中力を欠くなど、珍しい。 「だって、同じ、だったから。……あの時の、月と」  連られる様に、空を見上げる。 「ああ、今日は……」  輪郭までよく見えるそれを、彼は、どこか憂いのある瞳で見つめていた。 「満月は、好きか?」  独り言のように、そう問いかけた。やっとの思いで絞り出したのか、言葉尻が引き攣っている。 「うん。――初めて見た、世界、だから」 「……そう、か」 「あれ? ロニオ、大丈夫?  顔色、悪いよ……?」 「――あぁ、大丈夫だよ……ミレーネ」  月光にも負けない長髪を撫でてやりながら、ロニオは頷いてみせた。 (考えるな、余計なことは。それよりも、今はやる事がある) 「――今は、こいつらをどうにかする方が先だ」  辺りを見渡す。自分達を取り囲む、邪悪な気配を、二人は感じていた。  夜風に混ざる、切り裂くような空気。  明らかな敵意のこもった気配を感じて、ミレーネは、いつもと同じだ、と思った。
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!