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――先程彼女が落としてきたナイフを、そっと置いた。
「あっ……」
渡された抜き身の刃を、少女は悲しそうに見つめる。
落胆の色を濃くし、ロニオを見上げるも――
「行くぞ。間に合わなくなる」
そっけなく言い放つロニオに、肩を落とすしかなかった。
ロニオはそんなミレーネを尻目に、枕代わりにしていたものを拾い上げる。
――黒地に白い十字線が刻印されたそれは、どう見ても棺だった。ずっしりとした重量が伝わってくるようだ。
かなりの大型で、これに入るのは相当に背の高い人物だろう。
鋲留めされたベルトに右腕を通し、自力で立ち上がろうとしているミレーネを一瞥すると、ロニオはさっさと歩き出した。
それを見たミレーネも、急いで後を追う。歩きながら少し慌ててナイフを鞘に戻すと、大事そうに、腰のポケットにしまい込む。
廃墟に刻まれる足音が、不協和に響いていく。
ミレーネが歩を速め、彼の隣に追い付こうとする。
しかし、少女がどれほど歩みを進めても、二人の距離が縮まることは、ついに無かった。
ロニオは足早に、少女の遥か先を歩いていく。
その様は、わざと間を開けているようにも見えた。
まるで……恐ろしい何かから、逃げるかのように。
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