私の恋したカナリア

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カナリアは漢字で書くと金糸雀。キィ君の羽はその名に恥じぬ見事なイエローで、よく熟れた果実みたい。 透と私の関係を聞かれたら、それはやっぱり恋人と答えるのが正解だろう。でも透のことなんて、何も知らない。お兄さんがいるのを知ったのも、彼がいなくなってからだった。ところがお兄さんは私の存在を、それどころかメールアドレスまで知っていた。私の彼氏の「透」と、この人の弟の「透」は別の人じゃないか、なんてSFじみたことも考えてみた。私の知ってる透が、お兄さんに恋愛や将来のことを相談しているところや、小さなお菓子みたいな小鳥に餌を食べさせたり話しかけているところは想像できなかった。 正確にいうと、想像「できない」のではなくて「したくない」のだ。私は大学の誰よりも透のことを知っている。そう自分に暗示をかけるようにしないと不安だったせいもある。気まぐれでつかみどころの無い透の彼女である自信が無かった。透と付き合ってから「恋人」とか「愛」とか確かめようの無い言葉の境界線がはっきり見えないことが苦しくもあった。そんな私と透をつなぎとめるものが暗示だった。自己満足だと笑われるかも知れないが、私にはそれで十分だった。
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