私の恋したカナリア

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私の中の幼さは、私の知らない透の存在を認められない。同時に私は、私しか知らない透を誰にも見せたくなかった。自分の中にこんなにも熱く渦巻く執着の心があることは、ひどく私を悲しませた。心が狭く自分勝手な女の子だなんて思いたくないし、そんな自分を透に見られることだけはなんとしても避けたかった。 誰だってそうだろう。好きな人を独り占めしたいに決まってる。映画館でポップコーンを食べながら指についた塩を舐める時の、色っぽい目つきや、ネクタイを結ぶときの隙だらけな背中や、眠っている時の無防備に半開きな唇。鎖骨、目尻、喉仏、猫みたいに甘えてくる声、耳、くるぶし、ちょっと曲がった鼻の骨格、襟足……。彼のすべてを、血液も何もかも自分の体内に閉じ込めたい衝動にかられる。私だけだろうか。こんな、おじさんのスーツみたいな色した欲望にみんなは悩んだりしないのか。 家族に対抗意識を燃やすのは小門違いだろう。それでも私は彼の兄や母親にさえ嫉妬し、時には優越に浸るのだ。
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