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「春美、ピアス開けたの?」
授業中にも関わらず騒がしい教室の中、隣の席の春美の左耳にぶら下がっているピアスに気付いて話し掛けた。
「これ?昨日開けたんだぁ」
春美は指でちょん、とピアスを揺らし得意気に言う。
「へぇー、痛くないの?」
あたしは頬杖をつきキラキラと光るピアスを指さした。
「全っ然。注射のが痛いってくらい。ナツも開けなよぉ」
「えぇーいいやあたしは。なんか膿みそうだし」
開ける気なんてさらさらなかった。
春美の耳元で揺れるピアスが、彼女により大人っぽい印象を持たせているのは羨ましかったけど。
学校が終わり家に帰ると、うちの常連の矢吹さんがカウンターでコーヒーを飲んでいた。
「ナッちゃん、おかえりー」
「珍しい、矢吹さんがコーヒー飲んでるなんて」
矢吹さんは、あたしの母親が経営している喫茶店兼バーのこの店で、いつもカクテルを飲んでいる。
「昼間から飲んだくれてるほど、俺は落ちぶれちゃいねぇよ」
襟足の長い赤毛が肩まで伸びている。
あたしはいつもこのまっすぐ伸びた襟足を、綺麗だなぁと思う。
今日も飲んでくんでしょー?昼だって夜だって変わらないよっ、と階段をのぼりながら言った。
まだ矢吹さんしかいないカウンターから、彼の笑い声が聞こえた。
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