JET-3 ハートブレイクストア!

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戦場のピークが過ぎ、ホッと一息した頃、またドアが開いて、小さな兄弟がリュックを背負って入って来た。 お姉ちゃんの首には、小さなガマ口の財布がぶら下がっている。 二人はデザートコーナーのところで何やら相談して、コーヒーゼリーを二つ、お姉ちゃんがカウンターに運んだ。 「260円です」 お姉ちゃんは、首にかけたガマ口の財布を外し、財布の口を開け、一気に引っ繰り返した。 中から出てきたのは、ぴったり260円。 弟はだまってそれを見ている。 スプーンを二つ付けて、袋に入れてやると、お姉ちゃんはリュックにそれを入れて 「ありがとう」 一言いうと、弟の手を引いて、朝もやの中へ消えていった。 「どこで食うんだべ?あのゼリー。」 そんな事を思う。 副店長が言う、 「帰っていいよ」 なんかちょっと風変わりなこの副店長、一ヵ月バイトをして交わした言葉は。 「帰っていいよ」 「お疲れさまでした」 の一言だけ。 とりあえずバイトが終わる。 ジャケットを羽織って、リュックを背負って、外に出る。 ぼた雪はいつのまにか止んでいた。 俺は手紙の事を思い出し、ポッケから取出し、中を読んでみる。 そこにはただ 「好きでした」 そう、一言書いてあった。 奴には年下の彼がいた。 猛烈な男のアタックにより、彼女は折れた。 ・・・。 仲が良かった。 ・・・。 「彼と付き合うことになったんだ」 「おぉ、そうか、よかったな」 彼女はその時も今日みたいな笑顔で笑った。 「うん」 その声が少し震えていたような気がした。 そんな事を今になって思い出す。 部活の帰り、寒いバス停で、話をしながらバスを待った。 「待っても来ないから、一本バス見送って待ってたんだよ。」 彼女はいつも笑っていた。 「ねぇ、ギター教えてよ」 昼休み音楽室でギターを教えた。 その仕草や表情、声や、笑った時に上唇からのぞく八重歯・・・。 一つ一つを思い出す。 胸が苦しくなった。 俺は大きく息を吸い込む。 イヤホンを耳にあてて、朝日を背に俺は歩きだす。 「ロックンローラーになる!」 そう小さくつぶやく イヤホンの中では MR.BIG 「STAY TOGETHER」 がさわやかに流れていた。
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