幕間~砂漠の鐘

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「はぁ……はぁ……」     岩場の陰で乱れた呼吸を整えようとする一人の男。 ポッケ村を出立した商隊の一人である。   仲間は散り散りになってしまった。 あの――――双角の飛竜が現れたせいで。     「ち……畜生……!!」     少しでも心を落ち着けようと必死に呼吸を整えようとする。 だが、上手くいかない。   当然だ。   絶対に死ぬという状況で、気分を落ち着かせることなんて出来やしない。     「――――――――!!」     あぁ、遠くでまた飛竜の咆哮が聞こえる。 仲間がまた一人やられたのかもしれない。   だけど、そんなことよりも     「死にたくねぇよぉ……」     自分の命を失うのが何よりも怖かった。     「死にたくねぇ……死にたくねぇ……死にたくねぇ……死にたくねぇ……」     涙をぼろぼろとこぼし、祈るように呟き続ける。     「――――――――!!」     また、飛竜の声。 先程よりも近くから聞こえる。       ふと、その咆哮に紛れて、何か別の音が聞こえた。       「――――――――!!」     再度、飛竜の声。 だが、今度の声は咆哮というよりも――悲鳴の様にも聞こえた。       再度、別の音。       死の間際で幻聴が聴こえた。   どうでもいい。 諦めと共にその目蓋を閉じる。                     その閉ざされた視界の中で、厳かに響く鐘の音を聞いた。
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