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その時、集会所の空気がいつもと違う事に気付いた。
少ない人数――それだけでは無い。
喧しく騒ぐグラムの方を一瞥することも無く、仲間内でひそひそと会話を続けている。
俺達が居ない間に何かあったのだろうか?
「えーと、タニア。ちょっといいか?」
「はい? 何でしょうかキリエさん?」
報酬金を数える受付嬢に尋ねてみる。
単刀直入に聞く。
「何か周りのヤツらの様子がいつもと違うけど、俺達が狩りに行っている間に何かあったのか?」
途端に、タニアの表情が曇る。
「いえ、それがですね。昨日の昼に村を出発した商隊がいたんですけど、その商隊が砂漠を渡る途中、ディアブロスに襲われたらしくて」
――ディアブロス。砂漠に出現する双角の飛竜。
熟練のハンター達ですら始末に負えない、最強クラスの飛竜。
それに襲われたのか。
「それで……その商隊はどうなったんだ?」
おそらく――いや、間違い無く全滅だろう。
あの暴君に襲われて無事なわけが無い。
その残酷な事実を――
「全員、無事でした」
タニアが告げ――て、ってナニ?
「は? 全員助かったのか?」
「はい。怪我人は沢山居たらしいんですけど、命に別状は無かったみたいです」
「ちょっと待ってくれ。ディアブロスに襲われて怪我だけで済んだって……腕の立つ護衛でも連れていたのか?」
「いや、そういうワケでも無いらしくて……。――ちょっと妙な話なんです。ギルドから聴いた情報なんですが……」
タニアの話によると、商隊の連中はディアブロスの奇襲に遭い、その身を隠すのが精一杯で逃げるチャンスを掴めず、ヤツの餌食になるのを待つしか無かったそうだ。
だが、いつまで経ってもディアブロスは襲ってこない。
商隊の一人が、おそるおそる飛竜の様子を見てみると……。
「そのディアブロス――――死んでいたそうです」
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