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やがて見えてきた城壁の高い国で、キノとエルメスは入国手続きを済ませた。
国内は石造りの同じような家が点々と存在していた。
それぞれの家からは、人が歩けるくらいの舗装された道路が伸びていた。
道路の中心は少し盛り上がっていて、隅にある溝に水が流れるようになっている。
そしてその全てが国の中心の広場へ向かっていた。
キノは門番の兵士から受け取ったレインコートを着て、エルメスを引いて歩いていた。
辺りに自転車の姿は一台もない。
「あれ、何かやってるよ、キノ」
「行ってみよう」
キノは蛇行する道を歩いた。
ちょっとした坂道を登って、その先の交差点を左に曲がる。
荘厳なアーチ状のオブジェクトをくぐり、広場に出た。
そこにいたのは、キノと同じレインコートを着ている国民だった。
おそらく全員と思われる数の国民が広場中心の銅像に放射状に並んで、祈りを捧げていた。
キノは列の最後尾で両手を挙げて祈りを捧げている男に、
「すいません。これは何をやっているのですか?」
「ああ、旅人さんか。少し待ってくれよ」
男は言って、また祈り始めた。
「変わった国だね」
「ああ。こんな国は初めてだ」
穏やかな雨の中、国民たちの祈りは続く。
やがて最前列の国民から波のように土下座をして、祈りが終わった。
それぞれの家に帰っていく国民をかいくぐって、キノは先程の男に歩み寄ると、男はとりあえず雨のあたらないところで と言って近くの屋根付きのベンチに案内した。
「これは雨神様への感謝の儀式なんだ」
「あまがみさま?」
エルメスがすっとんきょうな声をあげて言った。
「ああ、そうさ。この降り止むことのない雨は全て雨神様のおかげなんだ。雨神様がお怒りになられて、雨が止んでしまったら困るだろ?だから毎日祈るんだ」
「なるほど。しかし、なぜ降り止むと困るのですか?」
「ここは土地柄から水がほとんどと言ってもいいくらいなかったんだ。そこに雨神様が雨を降らせてくださるようになって、今の環境になったんだ」
「だからこんなに雨が降ってるのか。てっきり最高運徳の生活と思ったんだけど」
「…晴耕雨読?」
「そうそれっ」
そう言って、エルメスは黙った。
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