雨の国

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 キノが入ってきた逆のオブジェクトをくぐって右に曲がる。 真っ直ぐ数分歩くと、そこには男の家はあった。 一回り大きいことを除けば、他と変わらない石造りの家だった。  男は扉を開けて、やけに広い玄関にキノとエルメスを迎え入れた。 キノにすぐそばにあるコート掛けにレインコートを掛けるように と促し、自分も掛ける。 「さて、と。改めて、ようこそ我が宿へ」  男はキノがレインコートを掛けたのを見計らって言った。  キノがエルメスを拭く布はありませんか? と聞くと、男はありますよ と言って、カウンターの奥から大きめの布を持って歩いてきた。 そしてキノがエルメスを拭き終わって、エレベータで二階の部屋に案内すると男は、 「では夕食ができあがりましたら呼びに来ますので」 「あれ?えらく丁寧になったね」 「キノさんたちはお客様ですからね。私は私生活と業務とは分けるタイプでして」 「ふーん。変わったことするね」 男はそんなことはないですよ と言って、キノに軽く頭を下げて出ていった。 部屋には大きな暖炉があって、その脇に薪が積んであった。 赤い絨毯が敷かれている。 外では雨足がしとしとと静かな音を立てていた。 キノはエルメスの荷台に満載された旅荷物を暖炉の隣りの机の上に置くと、 「雨が降り止まないなんて、不便な国だね」 「全くだ。この国ではあまり外に出ないでおこう」 「さんせー」 エルメスが言った。 「さて、晩御飯ができるまで――」 「できるまで?」 「シャワーを浴びてこよう」 「いってらっしゃい」  そしてキノは荷物から着替えのシャツを取り出すと、シャワールームへ向かった。
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