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「ちょっと、どうして止まるのさ」 モトラドが言った。 「ほら、あの山の上」 モトラドから降りてゴーグルを外しながら、旅人がつぶやいた。  旅人は十代中頃。 黒くて短い髪に、大きな目と精悍(せいかん)な顔を持つ。 頭には鍔と耳を覆う垂れがついていた帽子をかぶり、その上に先ほど外したゴーグルを載せていた。 茶色いコートを羽織り、下には黒いジャケットを着て、腰を太いベルトで締めていた。  右腰の位置に、リヴォルバータイプのハンド・パースエイダー(注・パースエイダーは銃器。この場合は拳銃)をホルスターに吊っている。 「ああ、虹だね」 旅人はモトラドを見ながら、 「虹か。初めて見た」 「しかも断片となって消えていくときなんて珍しい」 「滅びゆく美・・・うん、綺麗だ」 「何を言ってるんだか」 モトラドはあきれたように言った。 旅人はしばらくの間、目を閉じて静かに立っていた。 「何をしてるの?」 「この景色を簡単に忘れないようにしているのさ。さあ、行こう」  旅人はモトラドに乗って本来行こうとしていた目的地に向かって走っていった。
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