無言、無音、無色。

3/7
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
 講義室の扉が開く。だけど、僕にだけは音が生まれない。  映像として扉が開き、教授が休む間もなく喋り、時折、黒板に何か単語を書く。  だけど僕にはそれが理解できない。読めないというか、識別できないというか、字だということはわかり字の中でも分類や区別はつくのだけれど、意味と結合してくれない。ただひたすらに、僕の頭を通り過ぎてゆく。  こうしていたのは、ずっとかもしれないけれど、まだつい最近かもしれない。  困ったことに帰り道がわからない。  帰り道、亡くしました。  どうにか、どうにかしてください。  そういう思いも、熱を持たない。サラサラと頭を通り過ぎて、僕は僕でしかないことを感じる。  例えば、全ては現実だけど、全ては何かの影かもしれないなと思うわけだ。  そんな念慮というか思念は、僕の頭の機能のメインとなっていた。  講義室を出ると、新緑と明るい太陽が僕の世界に光と色を与えてくれた。  よくわからないけど、最悪だった。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!