無言、無音、無色。

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 高校の頃も、こんな天気の日は学校を抜け出して砂浜に寝転んで太陽の下にばかりいた。出席なんて全然足りなかった。  だから、僕は春休みに校舎のモップがけをひとりでやって卒業した。僕が高校で学んだのは、モップの上手いかけ方だったのかもしれない。  かろうじて入った大学でもまた、同じようなことばかりしている。  意味がない、と呟いてみる。  誰からも好かれない、けれど責められることはある。  わからないから数えられないのは、愛された回数と愛した回数。  数えてもキリがないのは、責められた回数とその理由がわからない気持ちになった回数。  僕は致命的に場の空気が読めず、それに輪をかけて無口なものだから、当然のように友達がいなかった。  そして気がついたら、字・言葉・文章の意味を理解できなくなっている。それが僕の現実だった。  僕は、ルーズリーフがもうそろそろ切れそうだったことを思い出し、学生生協へと向おうと思い、止まっていた足を進めた。  途中の中庭の池に、干からびたカエルのミイラを見つけた。  なんとなく不憫になったので、そっと、池に浮いた葉っぱに乗せた。カエルのミイラは貪欲に…とまではいかずとも、水を吸い込んで少し健康的なミイラになり、僕は少しだけ気持ちが安らいだ。  やだなにあれ、キモッ。ミイラかよ。  うっわまじキモイんですけど。  やっぱアイツまじやばいって。ほんと喋んねーしさあ、いつも一人だし。  甲高い声の黒のタイトスカートと銀のピンヒール、そしてヤケにテンションの高い声で騒ぐウォレットチェーンをジャラジャラ鳴らすダメージジーンズが、僕の横を通り過ぎた。  ウォレットチェーンが光を反射する。その光は僕に真っ直ぐに向かい、僕は眩しくて目を瞑った。その光に従うままに。  どれもこれも、いつものこと。  日光だけは、太陽だけは、全てに平等に降り注ぐ。  僕はため息をつき、丁度後ろにあったベンチに体を預ける。
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