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私を愛撫する掌、それはとても冷たく、そして何よりも渇いてました。
ああ……主人の心は、既に私にはない……。そう直感したのです。
正に“人でなしの恋”の冒頭そのものでした。
京子……と言うか、乱歩の言葉を借りれば、
『私を抱いているのは抜け骸……
あの人のお人形……
貴方の愛は、きっと何処か別の人の所へ……』
そんな所でしょうか。そうでしたね、アナタはご存知ないのでしたわね。
きっと読めばおわかりになりますわ、私の言っている事が。
話しを戻しましょう。
主人が浮気――……
とは言いましても、疑い以上の何かはっきりした物を持っているかと言うと、そうでもないのです。
元々引っ込み思案の私は、主人にそのような事を聞ける訳もありません。
ただ、主人は友人が多くおりまして、家を空ける事はしょっちゅう。
午前様も珍しくはありませんでしたが、大抵は行く先が知れていました。
持ち物なども調べましたが、主人の心変わりを証明するような跡は少しも見つかりませんでした。
引っ込み思案なのにそんな事をするのかって?そんな事は聞き流して下さいな、意地の悪い。
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