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私の心が揺れました。
その日も朝野は離れに向かったのです。
行くべきか、行かぬべきか。迷った挙句、私は離れに向かいました。
今だから言いますけれども、私は本気で離れが怪しいなどと、はっきり考えていた訳ではありませんでした…。
そこで、一人趣味に興じる主人の姿を見て、自分の心を安心させたかっただけだったのです。
ただ、脳裏には“人でなしの恋”が過りました。
本の中だと、京子が人形相手に恋心を抱く夫の門野の姿を見てしまうから……。
やっぱり、時間をあげましょうか?今からでも遅くはないわ、本を読んだら?
あらあらあら……いいの?私の話しを聞いてからで。じゃあわかったわ、続きを話しますね。
その離れには鍵が掛かっていました。たかが趣味。なのに鍵を掛けるなんておかしいと思いません?
灯りも薄暗いんですよ。
戸の前で悪戦苦闘していると、中から人の声が聞こえてきました。
確かに主人の声です。
――お前を失う事は出来ない、夜毎お前に会うのだけが楽しみだ――と。
そして中から高らかに笑う女の声が聞こえてきました。
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