告白:朝野姉弟

6/21
前へ
/86ページ
次へ
私の心が揺れました。 その日も朝野は離れに向かったのです。 行くべきか、行かぬべきか。迷った挙句、私は離れに向かいました。 今だから言いますけれども、私は本気で離れが怪しいなどと、はっきり考えていた訳ではありませんでした…。 そこで、一人趣味に興じる主人の姿を見て、自分の心を安心させたかっただけだったのです。 ただ、脳裏には“人でなしの恋”が過りました。 本の中だと、京子が人形相手に恋心を抱く夫の門野の姿を見てしまうから……。 やっぱり、時間をあげましょうか?今からでも遅くはないわ、本を読んだら? あらあらあら……いいの?私の話しを聞いてからで。じゃあわかったわ、続きを話しますね。 その離れには鍵が掛かっていました。たかが趣味。なのに鍵を掛けるなんておかしいと思いません? 灯りも薄暗いんですよ。 戸の前で悪戦苦闘していると、中から人の声が聞こえてきました。 確かに主人の声です。 ――お前を失う事は出来ない、夜毎お前に会うのだけが楽しみだ――と。 そして中から高らかに笑う女の声が聞こえてきました。
/86ページ

最初のコメントを投稿しよう!

38人が本棚に入れています
本棚に追加