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大臣は廊下を歩いていた。その足取りはいつもより軽く見えた。
明日は王女のお見合いである。しかも王が言うには、今回は王女も前向きに考えているらしい。これはひょっとすると…
「これでこの国は安泰だ!」
飾ってあった甲冑の額をコンコンと叩き、笑いながら語りかけた。とても気分が良い。酒を飲みたいが、一国の大臣がお見合い前日から酔い潰れては面目も丸潰れだ。なんとか自分を押さえようとするが、口の端がどうしてもあがってしまうのだ。
角を曲がると、王女の部屋の前に出た。まだ灯りがついている。―明日に備えてお休みにならなくては…―そう言おうとドアに手を伸ばした時に、大臣の耳に何かが聞こえてきた。
――ぐすん…ぐすん――
部屋の中から聞こえたそれは、大臣の手をドアから遠ざけた。
いくら良い人とはいえ、あまりに歳の離れた相手とのお見合い。国のため、名誉のための結婚。王女は一人の王族である以前に一人の少女なのだ。同じくらいの歳の男の子に恋をして、結ばれる。そんな普通のことへの憧れを、王女も持っているに違いない。
こんな宿命を一人の少女に…神様は…残酷だ。
重い足取りで、再び大臣は自分の部屋へと向かった。
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