prison break "脱獄"

5/10
前へ
/146ページ
次へ
  ※  ホーカー・シドレー刑務所の周囲には、厚い塀は勿論、ぐるりと壕も巡っており、それは、脱獄(まず『有り得ない』事であったが)や、外敵の侵入を防ぐ役割も持っている。  その壕伝いに、三人の人間が歩き、刑務所裏手の塀前へ向かっていた。  三人の内の一人、金色の短髪で碧眼の、コートを羽織った長身の男が、静かに口を開く。 「……ボスが囚われているのは、C棟二階の五号室。この壁を突っ切り、左の階段を上ったらすぐだ。私はEFを使うと暫くは動けん。気をつけて行け」  淡々とした、事務的な口調。  それを聞いた、燃えるように赤い瞳と髪を持つ男が、両手のナックルダスターをガチガチと打ち鳴らし、まくし立てた。 「なんだオッサン。このレナード様がしくじるとでも思ってんのか?」  筋骨隆々の体躯に加え、左腕全体に彫られた刺青が、威圧的な態度と合わさり、凶暴そうな雰囲気を更に増していた。  それをたしなめる様に、片手に、遠い国の剣『刀』を持った女が、落ち着いた声を響かせる。  この国では珍しい『着物』という麗美な衣装を着用し、黒い眼は冷たい光を放ち、肩にかかる程度の長さの黒髪からは、金色のピアスが覗いている。 「先日のロバート・サードウの件もある。……何所に特務機関が潜んでいても不思議では無い、ということだ」  その言葉にカチンときたのか、赤髪の男は「んなこたぁ、分かってるよ! イチイチ揚げ足とんな! バーカ!」と悪態をついた。  コートの男はそのやりとりに関することもなく、口を噤んだまま、腕時計の文字盤をライターの火で照らし出し、じっと見つめていた。  
/146ページ

最初のコメントを投稿しよう!

146人が本棚に入れています
本棚に追加