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ホーカー・シドレー刑務所の周囲には、厚い塀は勿論、ぐるりと壕も巡っており、それは、脱獄(まず『有り得ない』事であったが)や、外敵の侵入を防ぐ役割も持っている。
その壕伝いに、三人の人間が歩き、刑務所裏手の塀前へ向かっていた。
三人の内の一人、金色の短髪で碧眼の、コートを羽織った長身の男が、静かに口を開く。
「……ボスが囚われているのは、C棟二階の五号室。この壁を突っ切り、左の階段を上ったらすぐだ。私はEFを使うと暫くは動けん。気をつけて行け」
淡々とした、事務的な口調。
それを聞いた、燃えるように赤い瞳と髪を持つ男が、両手のナックルダスターをガチガチと打ち鳴らし、まくし立てた。
「なんだオッサン。このレナード様がしくじるとでも思ってんのか?」
筋骨隆々の体躯に加え、左腕全体に彫られた刺青が、威圧的な態度と合わさり、凶暴そうな雰囲気を更に増していた。
それをたしなめる様に、片手に、遠い国の剣『刀』を持った女が、落ち着いた声を響かせる。
この国では珍しい『着物』という麗美な衣装を着用し、黒い眼は冷たい光を放ち、肩にかかる程度の長さの黒髪からは、金色のピアスが覗いている。
「先日のロバート・サードウの件もある。……何所に特務機関が潜んでいても不思議では無い、ということだ」
その言葉にカチンときたのか、赤髪の男は「んなこたぁ、分かってるよ! イチイチ揚げ足とんな! バーカ!」と悪態をついた。
コートの男はそのやりとりに関することもなく、口を噤んだまま、腕時計の文字盤をライターの火で照らし出し、じっと見つめていた。
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