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E&H
カタカタカタカタっ。
えり子はイライラしながらキーボードを叩く。
「何で私がこれをやんなきゃならないのよっ!」
ブツブツと文句をいいながら、できるだけ早く帰る算段を立てている。
「お疲れ様でーっス。」
「お疲れ様~!」
デスクに残っている人に声を掛けて上がろうとしたひさ史は、返ってきた声に驚いて振り返る。
「あれ?えり子さんじゃないっすか。」
いつもは、バリバリ仕事を終わらせて、7時までには帰路についているえり子が、深夜1時まで残っているのだ。
ひさ史は驚いて、えり子のデスクを覗き込んだ。
「今日は…どうしたんですか?」
「……お疲れ、ひさ史君。いつもこんな時間なの?」
話し掛けられて、集中が途切れたえり子は、声を掛けてきたひさ史に視線を投げる。
どうしてこの時間になったのかは、思い出すだけでムカツクので…ひさ史の質問はパスだ。
「まぁ、ここ半年はこの時間ですねー。」
「そう。大変ね。」
ひさ史のちょっとのんびりしたような話し方に対して、どうしてもえり子の応えは冷たく聞こえる。
「あー、コーヒーでも買ってきましょうか?」
「……いいわ、私も行く。」
気遣ってくれたひさ史の気持ちが、久々に受けた他人からの好意で…えり子の機嫌は少し回復した。
「最近どうなの?」
えり子は、休憩室に向かうひさ史の背中に質問を投げかける。
「え?…どうって、何がですか?」
ひさ史は、えり子の質問の意図が分からずに聞き返した。
「何がって、色々よ。……。」
「めづらしいですね、えり子さんがそんな質問。」
曖昧な質問ををしてしまってばつが悪そうなえり子を、困惑した顔でひさ史が見る。
「最近は……何も無いですね。仕事ばっかりで。」
「そう……。」
「ほら、残業でこの時間だし、家でPCいじ……………………
ひさ史の話は半分に、ちょっとだけ昔の事を思い出す。
仕事に生きようと決めた、あの年。
馬鹿男。
恋に振り回されて、いろいろと大変な思いをした。
ちゃんと吹っ切るのにも、それなりに時間を使った。
そして、貝に閉じこもるように他人との接触はできるだけ控え、やっと仕事に専念できる環境まで持って来たのだ。
そして今がある。
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