空は泣きそうな程鉛色で

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昔から、クラスでは窓際の席になることが多かった。 授業中、開け放った窓から風が入りこんで、髪を 揺らす。 冷たくもなく 温くもなく ただ 心地いい風の感触が 優しい手のようで あたしは、目を閉じる。 本を読むのが癖になったのは小学生の頃からだ。 読みながら頭の中で映像を思い浮かべる。 ロンドンの町並み 行き交う人の群れ おしゃれな服 おしゃれな食事 想像しては、空想に浸る。 だって実際におしゃれな服や食事をしたらお金がかかるけど 空想なら全部タダだし 一度に色々な所に行けるし。 だから あたしは授業の合間にこっそりと本を読むのが好きだ。 でも一つだけ 空想だけじゃできないことがある。そう、一つだけ。 それは 『恋』だ。 「ヒロキ~!!次体育だってよ。お前ジャージ持ってきた?」 クラスの真ん中。 友達に声をかけられて笑う彼はクラスで一番の人気者。 かっこよくて、頭が良くて、面白くて優しくて、いつもみんなの中心にいる……そんな男の子だ。あたしは彼に、恋をしているけど、それは果てしなく遠い恋で。 「笠原~、明日英語当たるんだけど、教えてくれない?」 気まぐれに話しかけてくる彼にあたしの心臓は 鷲掴みにされた様に波打つ。 「あ、うん。」 器用に返事もできないまま あたしは勇気を無くしてうつむいてしまう。
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