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「うん、大きくなった。
ついこの間までは、こんなに小さかったのにね」
そう言いながら里香は自身の腰の辺りを示す。
僕はそれを横目で見ながら、玄関近くに置いてある自転車に手を掛ける。
制服のポケットから自転車の鍵を取り出すと後輪部分に付いているロックを外す。
小気味よい音が響き、そのまま足でスタンドを上げる。
「……それっていつの話?
少なくとも小学校低学年までは遡らなきゃなんだけど」
それから自転車を跨ぎ、サドルに腰を落とす。
足がようやく地面に着くぐらいの高さなのは背の低いことに対する少しばかりの反抗だ。
「幼稚園の頃の話し。
あの頃は里香ちゃん、里香ちゃんってついて回って可愛かったなぁ」
「……どこのお姉さんですか、あなたは。
言っとくけど、僕と里香は同い年だからね?」
「……分かってるわよ。
未だに幼稚園児みたいな顔してるくせにウルサいわね」
「…………」
さすがに幼稚園児はない。
どんなに大袈裟に言っても小学生、普通に見れば中学生がいいとこだ。
「……むっ、早く行こうって言ったのは里香でしょ。
僕は先に行くからね」
僕は軽く落ち込むも、それを誤魔化すために先に自転車を漕ぎ出す。
里香は待ってよ、なんて言いながら、近くに置いていた自転車に跨り、すぐさま追い掛けてきた。
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