《第一章》

9/32
前へ
/110ページ
次へ
「そういえば康介、昨日送っといたメール見た?」 ようやく並んだところで里香は僕に問う。 こういうところは本当にサッパリしている。 聞こえないふりをするのもありだったが、それだと大人気ないし、後で何されるか分かったもんじゃない。 ……それはそれで悪くはないんだけど。 「うん、見たよ。 宿題見せてってやつでしょ?」 「そうそう、それ。 もちろんやってるんでしょ?」 「そりゃ、あんなメールが来たからにはやっとかなきゃね…… あの後、急いで残ってた分を終わらせた」 「あはは、なんか悪かったわね…… ちょっと最近、いろいろ大変なのよ……」 「あぁ、なんか疲れてる感じはしたんだ。 少し心配だったんだけど、聞くのもどうかと思って……」 「……そんな変な遠慮すんじゃないの。 私達、いったい何年付き合ってると思ってんの? 幼稚園前からよ?」 「あはは、そうなんだけどさ……」 そこで僕は言葉を切る。 ……そう、幼稚園前からの付き合い。 今でも毎日のように顔を合わせ、言葉を交わす。 ……だから、手に取るようにとまではいかなくても、相手がいつもと違うことぐらいは察せてしまうのだ。 「まあ、そこが康介の良いとこでもあり、悪いとこでもあるんだけどね……」 僕が黙り込んだことを気にしたのか、里香はそうやって締めくくった。
/110ページ

最初のコメントを投稿しよう!

287人が本棚に入れています
本棚に追加