《第一章》

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「お、おはよう、里――」 「遅い!!」 本日、僕の聞いた里香の口から発せられた第一声は罵倒だった。 いくらなんでもいきなりはないと思うけど、待たせちゃったのは事実だし、とりあえず謝っておく。 というよりこんな状況での僕は謝る以外の選択肢を持っていないのだ。 「あはは、ごめんごめん」 なんか謝るのが癖になってしまっている。 たまにはガツンと言ってやった方がいいんじゃないかと思うけど、とうてい無理な話だ。 そんなタイプって言ってしまったらそれまでだけど、特にそんなこと言われても怒ろうとする気も起こらないから仕方ない。 こんな僕って情けないんだろうな…… 優しいって言葉に逃げることも出来るけど、結局、そんなことしたらそれこそ余計に情けない。 どっちも同じってわけだ。 「うむ、よろしい。 特別に許してしんぜよう」 表情を緩め、なんか偉ぶった口調でのたまった。 まぁ、要するにふざけているのだ。 そして僕は里香のそんな所が好きだったりする。 恥ずかしくてそんなこと言えないし、まずみんなの言う好きとは少し違うけどね。 「ははぁー、ありがたき幸せ」 だから、こっちもふざけてそう返してあげる。 すると里香はニコッと綺麗に笑った。 それに吊られて僕の顔にも思わず笑みが零れる。 「じゃあ、遅刻しちゃうし、早く学校行こ?」 「うん!!」 これがありふれた――少なくとも僕にとっては――日常。
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