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―命懸けの大技、なんてものが世の中にはあるという。
相手と心中出来れば良し、出来なければ無駄死にだと思う。
自分が仕留めなければ、他人に任せなければならないから。
配線の張り巡らされた部屋。
そこに、崇めるべき女神が鎮座している。
『お帰りなさい』
足元の配線を隠すかのように垂らした青い髪を微かに揺らして、女神が顔を上げる。
ガラス越しにしか見えない。
だが、一目で【愛すべきもの】だと認識する。
刷り込まれた知識に間違い無く『組み込まれた感情』。
『そう』だと理解しながらも、世界の仕組みの一つでしかない俺には、【愛すべきもの】としか見えない。
『貴方はいつも、生きて帰ってきてくれる』
だから
『好きよ』
笑顔と一緒に零れる最高の賛美。
上官からの褒美でも、誰からの賛辞よりも、胸を疼かせる甘い声。
―感情は、統制されている。
「有難う、■■■」
崇拝を強制されながらも、形式を許されない。
全て、彼女の思いのままに出来ている。
『ねぇ、私のために捨ててくれる?』
「何を?」
深い青の瞳が見つめてくる。
息が止まる。
要求されるのは、命よりも大切なものなのだろう、と、覚悟した。
『先に約束して?』
「…分かった」
反対など出来ない。
台本のセリフを口にしているだけだという、自覚。
否、視界で、舞台を見ている錯覚。
女神が笑みを浮かべる瞬間が、ゆっくり映る。
息を吸う、瞬間まで、
……そして、
『ヒトを捨てて、生きて帰ってきて』
残酷な言葉を吐き捨てるまで。
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