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「ちょ…何してるん!?」
慌ててボクも水の中にバシャバシャ入ってイヅルの所へ行く。
イヅルはきょとんとしてボクを見る。
「服濡れてまっとるやろ?」
「いいんです」
そしてイヅルは水面に背を向け、水に体を浮かばせる。ずっと空を眺めてポツリと一言。
「貴方も服、濡れてしまってますよ」
「キミが入ったからやろ?」
空を眺めていたイヅルの視界をボクの顔で奪う。
「…僕はいいのです。それに、お客様に風邪を引かれては困ります…」
バッと起き上がり、ボクの裾を掴むと芝生に連れてかれた。
「イヅルも風邪引いてまうやん」
ボクより濡れてんのに、と付け足すと「そうですね…」と、イヅルは髪の水気をはらい、着物をぎゅっとしぼり出した。
「あ、せやせや。キミ綺麗な声してんなァ…歌よかったで」
着物をしぼっている最中に話し掛けるボクってタイミング知らずやなァ…。
「…ありがとうございます」
「お金いくらやった?」
と言っても、お金持って来てへんからいっぺん家戻らなアカンのやけど。
「いりません。商売ではありませんので…そのかわり、お客様の名前が知りたいです。」
客に何人も名前を聞いて覚えているのだろうか。金はいらない。名前が知りたいなどと、この村の者は言わない筈。
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