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孝が死んだのは、十二月に入ってすぐのことだった。階段で転んで頭を打った、ただそれだけの呆気ない、死。
孝は昔から落ち着きがなく、慌てん坊だった。だからと言って、何もそれが原因で死ななくてもいいのに、と思う。
何をするわけでも、誰かを待つわけでもなく立ち続ける私の前を、カップルが横切った。
――孝の馬鹿。
罵りたい相手は、いなかった。
この世界のどこにも、いなかった。
私は格別することもなかったが、その場を後にした。そもそも、孝のいない世界でやることなどないのだ。
夜の暗さとは裏腹に街は明るく、華やかに飾り立てられた街路樹は切ないほどに美しい。
今日こうして一人で街を歩いていても、予定は何もない。けれど、歩いている理由ならある。せっかちで、気の早い孝が一ヶ月前から約束していたデートの日だから、私はこうして一人歩く。孤独に、悲哀に潰されそうになっても、私は歩いた。クリスマスの街を歩くことは、孝との約束だったから。
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