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孝とよく行った映画館に来てみた。レイトショーの時刻まで、満席だった。みんな暇だな、と思う。
孝、言ってたっけ。
「俺、映画が好きなわけじゃないんだよね。暇つぶしだよ、暇つぶし」
今でも一字違わず、覚えている。
恋人と遊んでいるのに、暇つぶしはさすがに酷い。私と遊ぶのは退屈だと言いたいのか、と私が憤ったら、孝は慌てて謝った。それでも許さないでいると、あまりにも情けない顔をするので、私はついつい許してしまった。
男勝りな私と、女々しい孝。正反対な二人は、けれども愛し合っていた。愛し合っていたのに、私は今――ひとりだ。
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