慌てん坊のサンタクロース

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 寒かった。ひとりきりのクリスマスがこんなにも寒いなんて、私は知らなかった。こんなことなら孝との約束だから、などと考えずに、家でおとなしくしていれば良かったのだ。 「会いたいよ、孝」  そう呟くと同時だった。  私の携帯から軽快なメロディが流れ始める。この着メロが流れるのは、ただひとり、私の愛する人からメールを受信したときだけ。 「まさか」  私は慌てて、携帯を取り出した。そんなことはありえない、と分かっているのに。  しかし、だけど、送り主は、孝だった。なぜ―― 『やっほー、俺ケータイさわってないのにメール着て驚いた? 去年はプレゼントあげれなかったのでサプライズです……』  何が何だか、わからなかった。孝は死んだのだ。なのに、なぜメールが届くの? まさか、本当にサンタがクリスマスプレゼントを?  ……いや、そんなことあるばすない。冷静な思考を取り戻した頭がそう告げる。  携帯ショップで、孝は聞いていた。携帯の機能を、それこそ孝が普段使わないような機能まで――タイマーメール。予め設定した日時にメールを届けてくれる機能。これをセットしたのはきっと、一ヶ月前に携帯を購入したあの日だ。  そんな機能を使って送られてきたメールの最後の文はこう書かれていた。 『……プレゼントは今から渡します。慌てん坊のサンタクロースより』  携帯の液晶画面に、白い粒が落ちた。空を見上げると、白い粉雪がぽろぽろと舞い落ちてきた。 「一ヶ月前から準備してるだなんて、気が早すぎるよ、サンタさん」  私は舞い落ちる雪を眺めながら、口ずさんだ。  ――慌てん坊のサンタクロース、  ――クリスマス前にやってきた。     了。
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