1 『十夜』

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 澄んだスープから立ち上る湯気に、鶏ダシのかぐわしい香りを乗せたどんぶりが目の前に置かれた。  空腹男がどんぶりに飛びつくと、たちまち十夜のラーメンは平らげられてゆく。  十五分ほどが過ぎ、男はどんぶりをカウンターの上に置き、長く息をついた。  どんぶりの中にはスープ一滴残っていない。  見事に完食である。 「とてもおいしかったよ。こんなにうまいラーメンは久しぶりだ」 「本当ですか? ありがとうございます」  低くもなく高くもない澄んだ声の中にうれしさが響く。  
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