時に、言葉より心より…(浦良)

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重なったのは誰だったんだろう。 その答えは、この子が持っている…と、何故か思った。 またしても本能か? こうなったら今日一晩くらい本能の赴くままに行動するのも悪くない。 というか正直、今の自分の行動は僕の思考パターンから大きくずれていて、考えてこの先動く事に少しの不安とどうしようもない無気力感が込み上げる。 早い話が考えるのが面倒になった。 「…そっか良かった。で、さっきは何で絡まれてたの?」 「…それが…私、見ての通りの田舎者で…。ある人を訪ねて上京してきたんですが…見事に迷子になってしまって…喉が渇いたので飲み物を買って、歩いてたら…さっきの男の人達にぶつかっちゃって…」 「それでジュースが男のスーツにかかって絡まれた、と」 コクリと彼女は頷いた。 なんともお約束だ。 「人混みの中で飲み物飲んだらダメだよ」 「違います!飲んでません!蓋を閉めて持って歩いてました。」 「…?じゃあ何でスーツに?」 彼女は言いにくそうに視線をチラチラさせる。 「いや…あの。しっかり蓋を閉めてたんですけど…いつの間にか蓋が無くて;」 有り得ない話では無いが可能性は極めて低い。 つまりペットボトルの蓋は人混みを歩いてるうちにクルクル回って外れてしまったのだ。 「…訪ね先の住所が書いてある紙もなくしちゃったし…はぁ…」 途方に暮れる彼女の溜め息はとても深かった。このどうしようもない不運さはダレカさんを彷彿させる。 彼女を見てると なんだか微笑ましくて笑みが溢れた。 「いいよ。僕が探すの手伝ってあげる」 助けてあげたい。 久しぶりに無性にそんな事を思った。
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