序章 黒の始まり

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  「その女子から離れろ、愚民」 殴られ、ボロボロの姿の少女と、『愚民』呼ばわりされた男二人は声がした方に視線を動かす。 「聞こえなかったか?離れろ、と言ったのだが」 何も言わない男二人に、尚も話し掛けるのは、教師などではなく、制服を着ている女生徒。 「全く、情けの無い事だな。本来守るべき対象である女子を、あろう事か守るはずの男が殴るとは」 何時からこのような非情な世になったのだ? 今まで否定や罵りの言葉を受けた事がなかったのだろう。 男二人は標的を淡々と自分らを罵る、目の前の女生徒に変えた。 「黙って聞いてれば言いたい放題言ってくれやがって」 男は睨みをきかせながら女生徒へ挑発をするが、挑発された本人は全く気に止めぬまま、クスクスと笑いながら更に男を煽る。 「ははは。言いたい放題言われたぐらいで何だ。貴様らはやりたい放題やっているではないか」 醜いな。 その言葉で完全に切れたのか、男は少女に殴り掛る。 「ナメやがって!」 「危ないっ!」 ボロボロになった少女が声を上げた時には、既に女生徒の姿はそこになく、青年の攻撃は敢えなく空を切った。 「全く、雑魚共が…」 男の攻撃を軽々とかわした女生徒は、顔を俯むかせ、ふぅ、とひとつ溜め息を付き、顔を上げた。 その顔は、静かな怒りを纏っていて、青年らはビクリと体を震わせる。 女生徒は殺気に満ちた瞳で青年らを睨みながら、一言。 「失せろ」 だが、男らはその言葉を聞くよりも早く。 そう、女生徒の顔を見た直後にはもう逃げ出していた。 「覚えてろ!」 などという、なんとも古くさい台詞を置いて。  
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