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そういうと、阿部はなにやら意味ありげな笑みを残して去っていった。
な、なんなんだよ一体……!
本格的にわけわかんなくなってきた…。
くそぉ、しかもなんか阿部のせいで更に混乱してきた気がする
水谷はというと、いまだに阿部の「うざい」を気にしているらしく、「どーせうざいですよー…だ」と一人でむくれている。
ダメだ。役にたちそうもない。
………もとからだけど
はぁ…とため息をついてふと窓の外を覗くと、グランドでは悩みの種がジャージで走り回っていた。
10月だと言うのに上は半袖で、少し大きめのズボンは膝のあたりまで捲られている。
9組は5限目体育なのか…
2学期の体育は、女子はソフトボールで男子は野球。
水谷なんかは
「うへー今日野球しない時間無いじゃーん」
などとうんざりしていたが、田島は見るからに早く打ちたくてうずうずしながら三橋たちとじゃれあっている。
ホントあいつの頭ん中全部野球でできてんじゃねーかってくらいだよな…。
野球馬鹿
そんなことをぼんやり考えていると、いつの間にか昼休みは残り3分になっていて、俺はあわてて席につく。
5限目は嫌いな生物だ。
ちょっと嫌になりながら鞄から教科書を取り出して授業の用意をする。
授業が始まってからも思考は完全にグランドで行われている野球とあいつの言葉に奪われていて、ただボーッとグランドを見つめていた。
すると
一際大きな声援
「気をつけろ」という守備側の声
グランドの生徒全員の視線の先にはバッターボックスに立つ小柄な背中
こんな遠くから表情なんてわかるはずがないのにあいつの、あの真剣な目が見える感じがした。
「次花井、教科書56ページから読んで」
教師の言葉に突如現実に引き戻された。
あわてて隣のやつにページを聞き直し、よくわからない単語で溢れた文を読んでいく。
その途中、窓の向こうから聞きなれた心地いい金属音が響いた。
ようやく指定されたページを読み終わり視線をグランドに向ける。
いつの間にかあいつの姿は三塁上
あー、なんか頭ん中ぐるぐるしてきた……
欲しいものってなんだよバカヤロー
結局ぐるぐると答えは考えつかないまま時間だけが過ぎていった。
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