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「花井!」
……デ、デジャヴを感じる。
振り返るとやっぱりそこにはあいつの姿。
朝と違うのはここが部室であいつが制服だってことだけだ。
部室にはもう他の部員の姿はなく、部活が終わってすぐに部誌を書いてた俺はやっと制服に着替終わったばかり。
いつもみんな俺が追い出すまで騒いでるくせに今日に限ってさっさと帰りやがって……!
俺はロッカーを閉めると田島に向き直った。
「………なに」
「答え、分かった?」
わざとそっけなく応えたのに、何かを期待するような目にうろたえてしまう。
結局朝から考え続けてもエロ本だの食いもんだの、安直なものばかりしか浮かばなかった。
最終的にはいつも感じていたコンプレックスに頭ん中がぐるぐるして答えなんて出やしない。
「………………」
俺は田島の視線に耐えられなくて、無言で目を反らした。
こいつに見られると、なんだか頭ん中全部見透かされてるような気分になる。
だめだ、このままだと全て
コンプレックスだとか
憧れだとか
頭の中で混ざりあってるいろんな感情を
吐き出してしまう
「わ、わりー田島!この後食いもんでもなんでも好きなもん買ってやるからさ!それで勘弁してくれ」
な?となかば言い聞かせるような作り笑顔で言うと、俺は田島から目を反らしたまま足元にある自分の鞄に手を伸ばした。
「ちぇーっ約束したじゃんか」
「だから一番欲しいもんは分かんねぇけど後で好きなもんやるって」
そういって顔をあげるとすぐそこに田島の姿。
「田島?」
「…良いや!今貰う!!」
「貰うってなに…を…っ!?」
最後まで言う前に俺の言葉は遮られた。
聞き返そうと開いた唇は田島のそれによって塞がれたのだ。
突然のことにただ立ち尽くす。
呆然としていると数秒間触れ合っていた唇がゆっくりと離れた。
「花井」
「お、前…な、にして…」
いきなりのキスに頭が混乱する。
ただ俺は口元を押さえて目の前の田島を見つめる。
「なんでも好きなもんくれるってゆったよね?オレ花井が欲しい、」
「ちょ、たじま…っ!んっ」
いきなり口元を押さえていた手を引っ張られてバランスを崩した。
田島は前のめりになった俺の首に片手を回すと、後頭部を固定する。
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