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僕の体はまるでKO時に膝から崩れ落ちるボクサーかのように力を無くす。
そして力を無くした左手から無造作にお茶碗が落下していく。
「パパ?」
しばらく頭が真っ白になる。何も考えられない。
何とかして正気を保とうとする。僕の目に映る海蘭の懇願する涙ぐんだ瞳が、悲しみをさらに煽る。
「やっぱパパには言おうと思って…。いいかな?」
…………。
葛藤が始まる。僕の頭の中で、今まさに世紀の大決戦が行われようとしていた。
アントニオ猪木VSモハメドアリのような。最近で言うと亀田興毅VS内藤大助のような。
あぁ、そう言えばあの時のキャッチフレーズが『戦うことが運命だった』とか言ってたな。
頭の中の『男女交際反対パパ』と『男女交際賛成パパ』はまさにこういうことだったんだ。
『戦うことが運命だった』と。
「パパ?」
しかし運命のゴングは僕の女神によって先延ばしにされた。海蘭の声で、僕は若干正気を取り戻そうとしていたからだ。
「チョット、カンガエサセテクレナイカ…?」
「チョット、マダ、アタマノセイリガツカナイカラ…。」
「アア、ソウダ。パパ、キョウハヤクカイシャニイクンダッタ。」
「ジャア、イッテクルヨ…。」
「ちょっと待ってよ!パパ!」
娘の声は耳に届いた。が、しかし振り返りもせずスーツを羽織ると僕は家を出た。
あ、そういえば海蘭のご飯を残したのは初めてのことだったかもしれない。
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