終演

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私は怖いのだ 今演じてるこの舞台を降りることが 私は幸か不幸か「楽しさ」というものを見出だしてしまった だから、いつか必ずある踏み外すその瞬間がとても怖いのだ 向こうには何があるかわからない 再び舞台に上がれるのだろうか この世界を見守り続けるのだろうか それとも 虚無なのか 虚無 なんと恐ろしい言葉だろう 何もないということ 記憶も 考えも 姿形も 存在さえも 何もない それが絶え間なく私は 怖いのだ たぶん そのときには私はもう「恐れ」という感情もないのだろう しかし 怖いのだ 自分の存在がかき消えるような気がして そんなのは嫌だ 私は確実にいたのだから この壊れかけた世界の片隅にいたのに でも、 演じるしかないのだ ならば 演じよう 誰かの記憶に深く残るように きっと それはとても残酷なこと でも 人は自分を守る為に「忘却」という素晴らしい機能を身に着けた だから いつか必ず来る未来 私の存在は 私の演じた証は 私にしか演じられなかった一つの役は 消えてしまうから だから それまでの間に 誰かに私のことを覚えていて欲しい それはとても残酷だけど とても幸せなこと  
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