笑顔でバイバイ

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三月。 だんだんと季節は春に近付いていて、外を歩くのにコートやジャケットは必要なくなった。長袖の洋服を着て、寒ければ薄手のマフラーをして、それでおしまい。 そろそろ春物の服も買わなきゃなぁ、なんて思いながらも、部屋のクローゼットの扉には、冬の間、大活躍したお気に入りのダークブラウンのジャケットが掛かったままだけれど。 部屋の扉の前に立ったまま、くるりと一周、そこを見渡してみた。随分と細々したものは片付けられている。今は、大きなダンボールが数箱、部屋の隅に積まれているだけだった。 でもまだ、小学生の頃から十年以上も世話になった勉強机には、受験のために購入した問題集がまだ立ててあったり、丁寧にコラージュされた写真が貼付けられたコルクボードも残っていた。 引越しは明日、そろそろそこも片付けてしまわなければいけない。 「おっじゃましまーす」 不意にノックもなしに扉をガチャリと開けられ、反射的にそっちに目をやった。人が感傷に浸っているというのに、脳天気な声でやってきた彼女は、そのままズカズカと部屋へ上がり込んだ。 .
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