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本当の気持ちを言えない苛立ちと、里沙がどんどん俺の全てを支配していく事が許せなくて、つい大声を出してしまった。一つ大きな深呼吸をし、唇をぎり、と噛み締めた。
里沙は写真が貼ってあるコルクボードを手にしたまま、俺をじっと見据えていた。
「…お前、何しに来たんだよ」
「…」
「勝手に、さぁ、」
「……邪魔しにきた」
「…は?」
ぽつりと呟いた里沙の一言の意図が掴めないまま、重苦しい空気だけが流れると、里沙は「帰る」とだけ言って、手にしたコルクボードを俺の胸に押しつけてきた。はぁ、と一つ、大きく呼吸をして、そのままくるりと部屋を出ようとする里沙の頬は、何故か、
濡れていた。
「…痛いんだけど…っ」
次に気付いた時には、出ようとする里沙の手首を掴んでいた。
でも、そこから何を言えばいいのかわからなくて、また沈黙が流れるだけだった。己のヘタレっぷりにこの時以上情けなく思った事はないだろう。
それでも、きっとこの手を離してはいけない、と感じていた。
「…昨日、おばさんから、聞いた」
どれくらい時間が経ったんだろう。気付けば外は夕焼けで、開けていた窓からは冷たい風が吹き込んできていた。
「分かる…?今まで何でも話してきた幼なじみが、知らない間に遠くへ行っちゃう気持ち」
先に口を開いたのは里沙だった。時折、ぐす、と鼻を啜りながらも、言葉を連ねてくれた。
「っ、邪魔して、引越し、遅らせてやろう、って思った」
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