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私は正直声も出なかった。
目の前に横たわっている先輩に声さえもかけられなかった。
何故?
どうして?
そんな事聞かれても分からないけれど先輩の手を強く握りしめるのが今の私には精一杯だった。
「香。ごめんな。お前に辛い思いさせないって決めてたけど無理だった。ここはお前のあるべき場所じゃない。だからもうここへは来るな。」
苦しそうな声で優しく呟く先輩の一言一言が心に響く。
「お前を縛り付けてたのは俺だったのかもしれない。」
私の瞳から流れ落ちた涙が先輩の手を濡らす。
「あの小僧の言う通り…学校へ行くんだ。…分かったな。香。」
私は頷くことさえ出来ないでいた。
心の中の格闘。
それは先輩から今まさに別れ話を言われてると分かったからである。
今ここで頷いてしまったら二度とこの手を掴めない。
二度とあの温もりを感じる事は出来ない。
そう私は悟っていたから…。
「穣。連れてきたぞ。」
一馬先輩がそういいながら連れてきたのは瞬だった。
私の瞳は驚きを隠せなかった。
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