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その瞬間…
先輩はポケットから徐にナイフを取り出すと自分の左腕に当てて思いっきり引いた。
「穣!」
一瞬の出来事だった。
宗吾先輩が声を張り上げ穣先輩に駆け寄り先輩を支えた。
そこで私が目にしたものは特攻服に刻まれた【香 命】と書かれた文字が真っ二つに切られそこに真っ白だった先輩の特攻服が血でみるみるうちに赤く染まっていった。
私は一瞬血の気が引くような思いだった。
そこに飾られたバラの花が散り行くように先輩の手を伝って地面へ滴り落ちた血を私は黙って見つめていた。
「これが俺の決意だ。分かったらもうここへは二度と来るな。」
そう言い残し先輩はこの場を後にした。
そして他の人達も先輩の後を追って出て行ってしまった。
残されたのは私と瞬だけ。
しかし今の私にとって瞬は壁と化していたのだ。
まばたきを忘れてしまうほど私は流れ落ちた先輩の血だけを見つめていた。
そして私は時を忘れてその場にしゃがみ込み泣きじゃくっていた。
一生分の涙を流してしまうくらいに…
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