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相変わらず紅葉を見詰めながら、少年か言った。
風で舞う落ち葉が頭に張り付こうと、まるで気にしない様子で。
首を限界まで上に向けて、紅葉に魅入っていた。
背丈は中ぐらい。
しわが目立つベージュのトレンチコートを羽織り、ある程度長さのある髪は、剣山の様にぼさぼさと逆立っていた。
その髪は、赤みがかった茶色。
肌は白っぽく、容姿と身長から見て――十五、六歳だろうか。
その少年は、再び口を開いた。
視線は――紅葉に向けられている。
「で、あんた誰?」
「ただの……通行人だよ」
我ながら最悪の台詞だが、嘘ではない。
偶然に、公園の前を通勤している通行人だ。
「そうかそうか。じゃあ、お兄さん。名前は?」
「み、三倉部。三倉部泉だ」
ぺらぺらと、見ず知らずの人間に個人情報を流してしまった。
雰囲気に――呑まれているのか?
落ち着こう。
焦ると、余計に口が軽くなる。
「それで、泉はさ。こんな所で一体何をしてるんだ?」
名前の次は、相手の目的を探る。
思った以上に、頭の切れるタイプなのかもしれない。
しかし、それはこちらの台詞だ。
こんな人気の少ない公園で、食い入る様に紅葉を見物する少年の行動の方が、余程不思議でならない。
その言葉を、そっくりそのまま返してやりたいぐらいだ。
「俺は、本当に通り掛かっただけだよ。そう言う――君は、何をしてるんだ?」
「何をしてる? いや、その前に――俺とした事が名乗り忘れてた」
少年は、紅葉から目を離し、こちらに視線を向けた。
「芦鳥楓だ。よろしく頼むぜ、泉」
「あしどりかえで。ああ、よろしく」
――とは言ったものの、関わり合う気は毛頭ない。
すでに、十分関わっているけれど。
「それで、楓君は何をしてるんだ?」
「君は止めようぜ、泉。何だか気持ち悪いぞ」
そう言いながら、楓は紅葉に視線を戻した。
「わかった。……じゃあ、楓は何をしてたんだ?」
「別にたいした事じゃないんだよ。いや、俺にしたらすげえ大切な事だけどさ。泉はどうか俺は知らないけど、俺はたいした事だと思う」
「……言ってる意味がわからないけど」
「まあ、順を追って話さなきゃわかる訳ないんだけどさ。期待はしてたけどな」
「…………」
初対面で勝手に期待されても困る。
それにしても、話の内容以上にわかりにくい。
この芦鳥楓は。
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