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数多いる泥棒の中でも、誰もがその名を知るのは、大泥棒石川五右衛門だろう。
京都三条河原で釜煎りの刑に処せられた天下の大泥棒。
小説の類いを含めれば、アルセーヌ・ルパン――正確にはリュパンだが、その答弁は次回に持ち越し――なんかもいい例だろう。
怪盗二十面相など、上げてしまえば切りがないが、現実にしろ文学にしろ、努力の結晶とも言えるぐらいに巧妙なトリックを駆使し、盗みを派手にやってのける存在――あるいは象徴なのか。
それは、いつの時代でも実在する。
有り触れてはいないが、実現する。
世間から見れば、ぶっ飛んだクレイジー野郎でしかないが、その、いかれた奇っ怪盗が、《表裏一体》だった。
《表裏一体の急死面》
《コイントスのサドンデス》
二年前の秋。
九月の下旬だった。
その怪盗は、白昼堂々と盗みを働いた。
もはや、怪盗ではなく強盗と言っていい程に大胆不適に。
警察の発表では、目撃者は誰もいない。
そして、奴は捕まる事なく仕事を完成させた。
もう一つ、洒落た言い方で雰囲気を出すならば、『奴は、さらに大変なものを盗んでいった』と言うべきだろうが、狂っていると言う言葉が寸分の狂いもなく的を射ている怪盗に関しては、そんな気遣いは無用だ。
演出ぐらい、勝手にやってくれる。
簡単に言えば――奴は目撃者になりうる人物を片っ端から殺したのだ。
怪盗や強盗と言うより、もはや殺人鬼だ。
何処にリュパンや二十面相の様な、知的で素敵なトリックが存在しようと言うんだ?
ふざけるのも大概にしろっ!
兎も角――歴史に刻まれるべき大事件だった事は間違いない。
とある理由から《表裏一体》の名で通っていが、わざわざ触れる事でもないだろう。
それだけの事件だけあって、その名を知らない者は日本には――大袈裟ではなく――存在しないだろう。
そして、俺の正面に立つ少年。
少年――芦鳥楓の言葉は、すば抜けて異常だった。
「おっと、その顔。もしかして泉、俺に惚れちゃった? 我ながら決まったって感じたな。まあ――口だけじゃ何とでも言えるけどさ。オープニングは、これから?」
「……うらやましいぐらいにポジティブだな。いや、がむしゃら」
「前向きは否定しないけどさ、がむしゃらではないって。そんな乱暴しないっつーの。むしろ紳士だぜ?」
「ありがたいお言葉」
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