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俺は、皮肉る様に楓に言った。
それさえも、楓は前向きに受け取ったらしく、あまり効果があったとは言い難い。
いや、それより――
「大体、表裏一体に用事? どんな用事があるって言うんだよ。冗談にしては、かなり質の悪い部類だよ。それ」
「冗談? 嘘も偽りも存在しねえよ。ジョークでもない。俺は、紳士って言ってんだろ? そういうのは、俺の主義に反するよ」
少し向きになる様に、楓が言った。
ふ~ん、成る程。やはり子供だ。
こう言う年頃は、表裏一体の様な、悪の美学的な物に憧れるのだろう。
善であろうが悪であろうが、強い者を単純に格好いいと思う。
少なからず、自分にもこんな時期があった。
馬鹿みたいに突っ走って、失敗して、打ちのめされて。
子供の戯れ事。
しかし、今日は平日だ。楓の年齢なら、学校で学業に勤しむ時間帯だろう。
サボったのか?
見た目は不良っぽくないが、ナイフの一本ぐらいは持っていそうだ。
荒唐無稽に表裏一体に用事があるなど、普通は考えつかないけど。
大体、用事もなにも、会える筈がないのだ。
相手は表裏一体なのだから。
自信に満ちた顔付きで、愚かな事を言って見せた楓。
……子供の冗談ぐらいなら、少しぐらい話しを聞いてやるべきか。
「じゃあ、嘘じゃないとして――楓は表裏一体に何の用があるんだ? 相手は狂った殺人鬼だよ。第一、どうやって会うんだい? それとも楓は、そこまで考えて言ってるのか?」
「だから、嘘じゃあない。おっかない殺人鬼? 上等。そこまで考えているのか? いなきゃ、ただの馬鹿だろう。ただの無策は、勇気でも何でもないぜ、泉」
俺を説き伏せる様に、楓が言った。
思わず関心して頷いてしまう。
雰囲気に呑まれるのは、俺の悪い癖だ。
「考え大有りだよ、オオアリクイだ。俺って、夏休みとか計画的に送るタイプだからさ」
「いや、楓の夏休みは知りたくない」
それと、オオアリクイは日本にはいない。
「冷たいなあ。泉、そんなんじゃ友達いなくなるぞ。悲惨な夏休みだぜ」
「余計なお世話だ」
初対面の少年に心配される程、悲しい夏休みは送っていないつもりだ。
確かに、友達が少ないのは認めざるおえないが……。
「楓の方こそ、友達いないんじゃないのか? 一匹狼ぽいって言うかさ」
「人を見掛けで判断するなよな。嫌な大人になるぜ? 友達は結構いる方だ」
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