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嫌な大人か……。
俺は、とっくの昔に成人しちゃってるから、晴れて条件を満たした訳だ。
おめでとう、自分。
「嫌な大人にならない様に、楓の言う事を信じるとしよう。それで、何でこんな場所で紅葉を見ているんだい」
「そこら辺の話しは、話せば長いが単純明解だ。俺は奴の居場所がわからん。だったら、泉はどうするんだ?」
「捜す――だろう。そりゃあ、簡単に言える事じゃないけどさ。警察みたいに、手当たり次第に捜すしかないよ。無理だろうけど」
警察だって、たいした情報など持っていない。
それを、一人の少年がやるには、あまりにも無謀だ。
「そうだよな。こっちから追い掛けても、姿を表す筈がねえんだよ。だったらどうする? 追わなきゃいいんだよ。待ち伏せだ」
待ち伏せ。
こんな平凡な公園に何があるって言うんだ?
「そう簡単に言うもんじゃないな。残念だか、待ち伏せっていうのは来るとわかっているから成立するんだよ」
もう一つは、楓は《表裏一体》の顔を知らないと言う事だ。
「考えようぜ、泉。俺が、何もない公園にいると思うか? 俺が準備もなしに、ただ紅葉見ていたと思うのか? 芦鳥楓の事は、この芦鳥楓が一番よく知ってんだよ」
堂々と自信に満ちた顔で、楓が笑った。
純粋って言うのか。
純に粋と書いて純粋。
いや、粋ではなく生意気。
生意気だ。
しかし、ここで気付かされる。
楓の瞳は――この芦鳥楓の瞳は、獣の様な目ではなかった。
貪欲で、光りを帯びていて、赤色が目眩がするぐらい渦巻いて、何処までも野心に満ちた――真っすぐな瞳。
楓は善かもしれない。
楓は悪かもしれない。
昔の自分は、こんな瞳をしていただろうか?
「泉。最近、この近くで宝石が盗まれたよな? 馬鹿でかいサファイアだったっけ? 警察は表裏一体に絞って捜査しているみたいだけど」
「ああ、そうだな。確かにあった」
その犯行も、疑う余地なく表裏一体だと警察は目星をつけている。
今回は派手に盗まれてはいないが、警察も表裏一体が相手じゃお手上げだろう。
降参したところで、自首してくれる訳でもないけど。
「その犯行。誰がやったんだろうな?」
「表裏一体だろう? 他に誰がいるんだ?」
「表裏一体だと断定する証拠はあるのか? あいつは証拠を残さない事で有名だろう? なあ、泉」
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