故郷

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一日一夜、ひたすら泣きつづけた男は疲れて、切株の根本で眠りに落ちた。そして朝の光とともに再び彼が目を覚ました時、あることに気がついた。 まだ細く、弱い――誰かが世話をしなければ、強風にあおわれただけで折れてしまいそうな若木だった。だがそれでも大木はまだ生きていた。 廃虚となり、くち果てた無人の村。だが村でたった一つの自慢であった――象徴ともいえる大木はまだ在った。 薄緑色の葉が一枚だけついた若い枝を、男はそっと覆ってのぞきこんだ。彼の目から枯れた筈の涙が流れ、頬を伝って葉へ滴り落ちた。 それから男は決意した。この若い萌芽を何年かかろうとも、以前と同じ大木にしてみせる、と。 男はまずくち果てた家を建て直し、そこに住むようにした。そして動物を飼い、畑を耕しながら毎日――雨の日も、風の日も欠かさずに若い枝の世話をしに村の外れまで足を運んだ。それは過去の男が自分から見切りをつけて、捨てた筈の生活だった。さらに一人だけの暮らしは、都会以上の困難もあった。 だがそれでも男は諦めることなく、黙々と自分がすべきことを行なった。
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