一つの歯車

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 しかし、この状況を打開は出来ないが少なくとも硬直させる事が私には出来る。  ……自慢ではないが、私は攻撃は全く出来ない。  最大値が10で、平均が5のパラメーターに私を当てはめるなら、ほとんど3か4にしかならないと思う。  そんな私でも、一つだけ9になる分野がある。 『空間制御』……簡単にいえば結界の作成と介入が特出しているのだ。  私は単独の詠唱で多重詠唱の魔法に匹敵する結界を作成出来る。 「ツェリ……後は頼んだ」  現場の指揮官は手に負えないと判断して私の魔法を使うことにした。  私の固有魔法の詠唱には相当な集中と時間が必要だ。  そんな隙をあの化け物相手に作るからにはそれこそ捨て身でかからなければならない。  味方が次々と減っていくなか、私は魔法を完成させた。  そして、発動の命令を出すとき周りの様子を見た。  地面はいたるところが真っ赤……  敗北すまいと叫び立ち向かった者達は、最早どれが誰か判らなくなる程グチャグチャに蹂躙されていた。  生臭い朱の原に白い棒と肉塊が乱立するステージの支配者は『蛇』、踊っていたのは私たち……  しかしそれもすぐに終わらせる準備が出来た。  上から見下ろす八つの頭と私以外に少し離れたところで動いていた者がいた。  指揮官の男性だ。  味方は壊滅し彼も隻腕になってしまったにもかかわらず私の視線に気がつくと少し微笑んだ。 「生き延びてくれ、援軍が来るまで」  彼は意図的に私の反対側に離れてゆき派手に魔法をばらまき『蛇』の注意を私から逸らす。  それは死ぬ間際に発動する『オーバードライブ』を使用した最大火力の魔法……  しかし、その一撃でさえ『蛇』はさほどダメージを負っていないようだ。  私は二度と忘れない。  私を信じて使命に殉じた仲間も、この地獄も。  最後の抵抗も数瞬を置いて終わった。  彼の上半身が吹き飛ぶという結果に。  私は彼の最期を見届けた後、結界を発動した。  ……もし、保安隊がこの事を予測して私を作戦に参加させていたのなら、私はすぐに保安隊をやめることにした。
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