とわにともに

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私は貴方を喪いました。 貴方と過ごした日々。 どれだけ幸せだったでしょう。 これからそれは想い出になっていくのでしょうか。 貴方の笑顔が。 貴方の声が。 遠い、遠い想い出になっていくのでしょうか。 貴方と出逢ったのは、会社のオフィス。 先に入社していた兄の紹介で、挨拶を交わした時です。 「はじめまして」 そう言った貴方の笑顔が今でも私の胸に残留しています。 それからは、私にとってとても幸福な日々が続きました。 くだらない事を言い合い、くだらないことで笑いましたね。 時には兄と三人で遊びました。 私の小さなアパートで、狭い部屋で三人ギュウギュウ詰めになりながらお酒を飲んで…馬鹿騒ぎして……。 何でもないような。 それでいてとても、とても楽しい日々。 それがずっと続けば良いと思っていました。 私は兄が好きでした。 私は貴方を愛していました。 でも。 貴方は兄を選びましたね。 私がその場を離れている時。 兄からのプロポーズを受ける貴方の顔。 あんな嬉しそうな顔は、今まで見たこともありませんでした。 私にその表情は向けられた事はありませんでした。 私の中で何かが音を立てて崩れました。 気が付くと、私は貴方をさらっていました。 貴方が嫌がる度に私は頬を殴りました。 無理矢理、兄の下から貴方を引き離しました。 変わらず、私は兄の事が好きでした。 それでも私は貴方を手放したくなかった。 それほど貴方を愛していたのです。 それから貴方は、私の言う事を聞いてくれるようになりました。 それから貴方から、笑顔が喪われました。 それから私は、貴方の顔を見れなくなりました。 3年が経ちました。 生きながら死んでいる貴方。 貴方を手に入れたのに感情が死んだ私。 そして本当に貴方は死んでしまった。 首を斬り、血が噴き出し、全てが朱に染まった部屋。 私はその時全てを喪いました。 絶望し、私も死を迎え入れようとしました。 でも、まだ全てを喪ってはいなかった。 貴方の身体はここにある。 ――目の前に、ホルマリン漬けの彼女の遺体。 サイレンの音が聞こえます。 私はここから去らなければなりません。 でも、貴方はずっとココに居る。 また逢いにきます。 それまで、サヨウナラ――。
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