月の影

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――どうやって帰ってきたのかは覚えていない。    気付けば家に駆け込み座り込んでいた。   全速力で走ってきたのか、肩で息をし心臓は張り裂けそうだった。      日頃運動をしないからだ。 など考える余裕はまったくなかった。      周の頭は恐怖と疑問で渦巻いていた。    なぜあんな場所に行ったのか?    なぜ歌が聞こえてきたのか?    なぜ声の主を探そうと思ったのか?    なぜ………?    忘れたいと思った。    今あの場所で見た風景を。    家を出たときは綺麗だと感じていた月が、不気味に輝いて見えたあの瞬間を。     あるはずのない光景。    周は幽霊や宇宙人など信じていない。  自身の目で見たものだけを信じるせいかくだからだ。    しかし信じられない。    草を掻き分けて進むと大きな湖が見えた。  紅く不気味に輝く月。  湖に映るもう一つの月。   一人の女が歌っていた。    そんなはずはない…。  信じられない…。    だって 彼女が立っていたのは…      湖の真ん中だった…。     恐怖と疲労が重なった周はそのまま意識を失った。
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