3人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
――どうやって帰ってきたのかは覚えていない。
気付けば家に駆け込み座り込んでいた。
全速力で走ってきたのか、肩で息をし心臓は張り裂けそうだった。
日頃運動をしないからだ。 など考える余裕はまったくなかった。
周の頭は恐怖と疑問で渦巻いていた。
なぜあんな場所に行ったのか?
なぜ歌が聞こえてきたのか?
なぜ声の主を探そうと思ったのか?
なぜ………?
忘れたいと思った。
今あの場所で見た風景を。
家を出たときは綺麗だと感じていた月が、不気味に輝いて見えたあの瞬間を。
あるはずのない光景。
周は幽霊や宇宙人など信じていない。
自身の目で見たものだけを信じるせいかくだからだ。
しかし信じられない。
草を掻き分けて進むと大きな湖が見えた。
紅く不気味に輝く月。
湖に映るもう一つの月。
一人の女が歌っていた。
そんなはずはない…。
信じられない…。
だって 彼女が立っていたのは…
湖の真ん中だった…。
恐怖と疲労が重なった周はそのまま意識を失った。
最初のコメントを投稿しよう!