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目が覚めた。
梁が剥き出しの天井のそこかしこに蜘蛛の巣がはっており、峨や羽虫の行く手を阻んでいる。
「んっ…」
誠はかけられていた毛布をはぐり、体を起こす。
辺りに散らばっているペンチ、ドライバーや何に使うのかよくわからないもの、そして微かにガソリンの匂いが漂っている。
自分の身に何が起こったんだろうか。
思い出そうと試みたが、誠の記憶は、朝も早くから学校の教室で勉強していた、そこで途切れていた。
恐怖で自らの血の気が引いていくのを感じるなか、誠はギリギリの冷静さを必死に保つ。
(まず、どんな状況であるにしても身の安全の保障はない。確かなのは、自分は知らない部屋にいるという事実だけ。部屋の中には様々な工具が目に入るが、少なくともそれらをつかって逃げ出すことは不可能らしい。可能ならば放って置くわけがない。もっとも、全て思い込みであり何処かの誰かが匿ってくれてただけなのかもしれないが、まともな人間がこんな場所に他人を寝かせるか?)
「お、起きたか」
話しかけてきたのは見覚えのない無精髭を生やした中年の男。
恰好からするに自動車の修理工か何かだろう。
「……だれ?」
男はおどけたようなそぶりを見せて言う。
「店の前に倒れていたんでね。無視するわけにもいかないから中に運んで寝かせてたわけだが……」
誠がきょとんとしているのを見て男は
「ようするにだ、お前さんこそ誰だ?人に誰か尋ねる時はまず自分から―――だろ?」と付け加えた。
「えっと…日向井っていいます」
「下の名前は?」
「誠です」
「オーケー、俺は風間 霧人だ。で、お前さんはどっから来たんだ?」
「学校にいたはずなんですが…」
「学校……学校に行ってたのか?」
再びきょとんとする誠を見て、はぁっ…とため息をつきながら呆れたように男が言う。
「後ろのカレンダーを見てみろ」
そのカレンダーにはこう書かれていた。
――2217年 11月 15日
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